鼻母音(びぼいん)とは鼻からも息が抜ける音のことで、日本語の「ん」に近い音ですが、中国語では「n」と「ng」の2種類があります。「n」と「ng」は独立して音節を作ることはなく、a、e、i、üなどの母音の後ろについて~nと~ngとなります。
今回は、この難しい鼻母音のnとngをどのように区別して発音すべきかを説明します。
鼻母音(nとng)の概要
日本人の耳には「~n」と「~ng」はどちらも同じ「ん」に聞こえます。
よく例に出されますが、nは「案内(あんない)」というときの「ん」であり、ngは「案外(あんがい)」というときの「ん」です。日本人ならどちらも同じ「ん」ですが、後ろの音の影響を受けて、中国語の音声の観点から言えば、異なります。
体系的な説明は次のページを参照ください。
「n、ng前の母音の変化」を意識
日本人にとって(さらに多くの中国人にとっても)n-ngの部分だけを、切り出して聞いても違いはわかりません。
そこで重要になるのは、前の音の変化を意識すると聞き取りやすくなり、伝わりやすくもなります。
(もちろん、中国語ネイティブはそのようにあえて前の音を変えるという意識はもっていません)
nの口は閉じ気味で、ngは開き気味となることから、前にある母音の音が影響を受けます。
この「前の母音の変化」が大きいほど、実は学習者にとっての重要度も高くなります。重要度とは、中国語のコミュニケーションにおいてn-ngの区別ができないことによる影響がどれだけあるか、ということです。
nとngの違いがある母音は、以下の3グループに分けられます。便宜的に、A系、E系、I系と呼びましょう。(ünは鼻母音ですが、üngという母音は存在しないため、n-ngの区別が問題になりません)
A系:an, ang
E系:en, eng
I系:in, ing
これらの鼻母音ですが、中国語のコミュニケーションにおいてその区別(n-ng)重要な順番は、次のようになります。
A系:an, ang > E系:en, eng > I系:in, ing
I系:in-ing
まず、学習者はI系のn-ngの違いの優先度は低いと認識しましょう。
実は、中国語ネイティブでも南方の人は、I系のn-ngの違いができない人が多数います。聞き分けられないし、自分でも発音できないのです。
in-ingの違いによる単語の誤解なども少ないから問題になりにくいのです。
E系:en-eng
E系の重要度は一定程度あるので、少し注意をしましょう。
eも、nとngの違いの影響を受けます。enの場合、eは若干、日本語の「エ」に近くなります。engの場合は、本来のeの音がそのまま出るので、あえて日本語でいうと「オ」に近くなります。ただし、eの口の形はもちろん日本語の「え」のときのような形になります。
ただ、さらに詳しくいうと、子音の違いもen-engの区別に関係します。shen-shengはあまり変わらず、 fen-fengなら音の違いは顕著になります。
丰富feng1fu4 (豊富)と、吩咐fen1fu4(0)(言いつける)では、日本人でもeの音に違いを感じることができるでしょう。
日本人でも、en-engの音の違いは十分に感じることができます。
A系:an-ang
an-angの違いが最も大きく重要です。
ianとiangを例にします。ianは、多くの教科書でも書かれていますが、あえて日本語で書くなら「イエン」のような発音になります。つまり、ianのaは、「エ」の音に近くなります。
一方で、iangのaはあえて日本語で書くなら「イアン」のような発音になります。つまり、ianのaは、中国語本来のa(つまり日本語の「ア」より奥からはっきり出す)です。
この違いは、ian-iang以外のA系、例えば、uan-uang,an-angなどでは若干違いが認識しずらくなっています。
例えば、还huan2と 黄huang2ですと、前者のaは少し「エ」が混じったaに聞こえて、後者ははっきりとしたaです。
A系は重要度が比較的高いので、しっかり意識しましょう。
ある浙江省出身の中国語ネイティブに依ると、一部の中国人はan-angを「鼻母音の対(前鼻音と後鼻音)」として意識していなかったそうです。それだけaの音の違いがあると認識されているようです。
日本人でも、an-angの音の違いを感じることができます。
まとめ
結論をまとめます。n-ngの違いについては、nとngの部分の発音で違いを出そうとせず、その前の音の変化を意識して取り組むと比較的攻略しやすくなります。
ianなら(あえて日本語で書くなら)「イエン」で、iangなら「イアン」となります。fenなら(あえて日本語で書くなら)「フェン」で、fengなら「フォン」、in-ingは音の変化がほとんどなくネイティブにも区別がつかなくてもコミュニケーション上、大きな問題にはなりません。
鼻母音のn-ngの区別については、このような重要度を認識した上で、前の音の変化に集中して取り組むとよいでしょう。