中国語の有気音と無気音について正しく理解し、発音、聞き取りができるようになりましょう。
(1)日本語にある「有声音/無声音」の区別
日本語には、声帯の振動の有無で「有声音」と「無声音」の区別があります。
例えば、「パ」と「バ」、「タ」と「ダ」、「カ」と「ガ」などです。
無声音(声帯の振動のない)のp,t,kと、有声音(振動のある)のb,d,gです。
※日本語の音すべてにこの対立があるわけではありません。ア行、ナ行、マ行、ヤ行、ラ行、ワ行の音にはこれらがありません。英語も日本語と同じように無声音と有声音という区別があります。
(2)中国語の「有気音/無気音」
しかし、中国語には、日本語にある「有声音/無声音」の区別がありません。その代わり、「有気音(息が強く出る音)」と「無気音(息がほとんど出ない音)」という区別があります。
整理すると以下のようになります。
有気音 p t k q c ch
無気音 b d g j z zh
※その他の子音 m f n l h x s sh r
中国語では、子音を発音する時強く息が出るか、ほとんど息が出ないかで違いを認識しています。
(3)有気音の特徴は声の大きさではなく「息の音」
有気音の発音は次の3つの段階からなります。
①閉鎖(空気の流れをせき止めていた部位)を開放する段階
②息が持続する段階
③母音の段階
この②が重要です。
例えば、
中国人がpaを発音する場合、以下のようになります。
①閉鎖(空気の流れをせき止めていた部位)を開放する段階
②息が持続する段階
③母音の段階※「かっこいい中国語 10月2日」の説明より(以下図含む)
「②息が持続する段階」とは、つまり、「閉鎖が開放するときの一瞬の音」と「母音」以外の「息だけしか出ていない」段階です。この息だけしか出ていないところが有気音の最重要ポイントです。
日本人がふつうに子音を発音すると、①「パッという開放音」と③「アーという母音」だけになり②「ハーという”息だけが出る音”」がありません。
そうすると、中国人には「無気音」に聞こえてしまいます。ですから、日本人が有気音のつもりで「pa」と発音しても、中国人には無気音の「ba」に取られる可能性があります。
(4)発音表記
ピンインの場合、中国語の「他(かれ)」と「打(打つ)」の音はta(有気音t+a)とda(無気音)と表記されます。
これは中国がピンインの表記を検討した際にアルファベットを有効に使うために決まったものです。
一方、国際発音記号※では、「他(かれ)」はt‘a 、「打(打つ)」はtaと表記されています。
※あらゆる言語の音声を共通の文字で表記すべく、国際音声学会が定めた音声記号
つまり、両方とも日本人にとっては「た」のように聞こえることがありえます。なぜなら、中国人にとって重要なのは、上述の「息の音」だからです。
(5)日本語と有気音/無気音
日本語のように声帯が振動するか否か(有声/無声)は、中国語では全く無視されます。
例えば、中国語の「打da3」なら無気音なので、息が出ていなければ問題ありません。
基本的には(日本語でいうところの)有声か無声かはどちらでもよいことになります。つまり日本語の「た」のように聞こえても、「だ」のように聞こえてもどちらでもよく、ポイントは息の強さ(daの場合は息が出ない)です。
中国人にとって、日本人の発音する「わたし」の「た」は無気に近いので、ピンインでいうとtaではなくdaと認識する傾向があります(日本人は「た」を無気として出しているわけではないですが)。なので、日本語学習中の中国人が「わたし」のことを「わだし」と発音してしまう理由がわかります。
一方で、日本語の「たわし」の「た」は有気音に近く、中国人にはtaと捉えられるようです(日本人はこの「た」を有気として出しているわけではないですが)。日本人は意識していませんが、同じ「た」なのに前後の発音により聞こえ方が変わるのは、日本語学習中の中国人にとって大変やっかいな問題です。
(他にも、「とまと」の最初の「と」と最後の「と」は、日本語の発音では同じ音に分類されますが、中国語の「有気音/無気音」という発音体系では、前者は有気音、後者は無気音となるといいます。)
(6)中国語学習者はどうするべきか
発音する際に(3)に書かれた有気音のポイントを意識して発音しましょう。①息のせき止めと、②息だけの音に気をつけます。また、教科書のCDなどでこの違いを意識して何度か聞いてみましょう。
発音に関して、日本語の中にも有気音と取られるような発音(上述の「たわし」)もあるわけなので、あまり、難しく考える必要はありません。
まずは自分が発音できるようになれば自然と聞き取れるようになるでしょう。